30年間かくれんぼを続けていた男性ついに見つかる。

2039年6月6日、住所不定無職のアルフレッド・パークマンさん(40)が、開始当時鬼であった東京都在住の山口智信さん(39)によって、ついに発見された。
山口さんが夕飯を食べるために途中離脱した幼少期のかくれんぼから、約30年の月日が流れた計算である。
パークマンさんが発見されたのは、五反田にあるとあるネットカフェ。ドリンクバーでコーンポタージュを繰り返し汲んでいる男性を、山口さんが不審に思って声をかけたのが発見のきっかけだった。
その呼びかけに対しパークマンさんは、日本生まれ日本育ちであるにも関わらず、「ハイ、パークマンデス」とワザとらしい外人なまりで冷静に答えたという。
しかしながら、そのわざとらしい外人なまりでの対応が、30年前に一緒に遊んだ当時のままであったことから、パークマンさんであることが発覚。山口さんは「妙に感慨深いものがあり、素直に『見っけ!』とは言いにくいものがあった」と発見時の感想を述べている。
一方、見つけられた側のパークマンさんであるが、「これまで日本中の様々な場所で隠れてきたが、まさかネットカフェで声をかけられるとは思わなかった」と、こちらは山口さんの突然の発見に対し、かなり肩を落とし気味であった。
それゆえに、現場にかけつけた記者の質問に対しても「その日座っていた席は、お気に入りの24番のリクライニングシートだったから、つい油断してしまった…」と回答するにとどまっている。
ただ、約30年にも及ぶ逃亡生活の終了には、やはり感慨深いものがあったようで、「これでやっとママのマッシュポテトを食べられるよ」と、満足気な笑みを浮かべ、その場でコーンポタージュをゴクリと飲み干すなど、最後には長年の逃亡者として、気丈に振る舞ってみせた。
記者に対して、山口さんがかくれんぼの勝者としての喜びを最後まで口にしなかったのも、おそらくはそんなパークマンさんの態度に敬意を表してのことだろう。
窓の外を見つめ続けていたパークマンさんの真っ直ぐな瞳からは、30年間の並々ならぬ想いが感じられた。
記者会見の模様
30年間に及ぶかくれんぼが完全決着したあくる日の朝、ネットカフェのナイトパック終了時刻と同時にパークマンさんと山口さんの記者会見が開かれることとなった。
記者会見に出席した某新聞の記者によれば、会場入りしてきた二人の表情は、憑き物が落ちたように晴れやかだったとのこと。記者会見は質問形式で行われ、約二時間に渡ってその思いのたけが語られた。
約30年間にも及ぶ逃亡、捜索生活について
パークマンさんの回答「あえて人が多そうな所に行ってみたりもした」
最初はドキドキして楽しかった。でも、時間が経つに連れて、いい加減見つけてくれよという気持ちが芽生えてきて、それからは自分自身との闘いが続いた。なかなか見つけてくれないグッチー(山口さんのあだ名)に腹が立って、あえて人が多そうな所に行ってみたりしたこともあった。でも、それは間違いだった。一人で行く遊園地ほど悲しいものはない。開園から閉園までいたけど、乗り物はコーヒーカップにしか乗らなかった。なんで、唯一の乗り物にコーヒーカップを選んだかだって?漫画喫茶のドリンクバーでいつもお世話になっていただけに、それは流石に乗っておかなくちゃって思ったからだよ。
山口さんの回答「鬼としての義務を果たさずにいることは出来なかった」
かくれんぼの途中で帰ってしまった当時は、正直なところ、あのまま彼が隠れ続けているなんて考えもしなかった。その日はカレーだったので、そのことばかりに頭がいっていたのだと思う。でも、次の日からパークが学校に来なくなって、私もようやくそのことに気がついたんだ。大人になってからも、かくれんぼを続けなくてはならないのはとても辛かったが、鬼としての義務を果たさずにいることは絶対に出来なかった。月に一度、あるいは年に一度くらいは、かくれんぼをした公園に行ってパーク(パークマン氏のあだ名)を探したりもした。
当時のままの格好をしていたことについて
パークマンさんの回答「服を着替えるのはフェアじゃない」
服を着替えるのはフェアじゃないと思って、同じ服を着続けた。それでは『かくれんぼ』ではなく、『変装』になってしまう。身長が伸びて、段々着ていたシャツがチビTシャツみたいになってきたのにはビックリしたが、大事に着ていたので破れることは最後までなかった。ただ、半ズボンは寒かったし、ちょっとした大人の事情が起きると凄く痛かった。夏になっても真っ白なままの膝小僧と、この異常なまでにマゾな性格は、たぶんそれが原因。でも、かくれんぼ中のマイライフは、ショートパンツというよりはロングパンツのように感じられた。だから、スーツを着るのも、実は今日が生まれて初めてなんだ。ロングパンツって楽だね。
山口さんの回答「パークのフェアさは、あんまり意味がなかった」
当時からパークは凄く公平さを重んじる男だったので、服は絶対に当時のままだという確信はあった。けれども、子供の頃の出来事だったこともあって、どんな格好をしていたかなんて今はすっかり忘れていて、発見した時は最初に言葉を交わすまでは、露出狂の外人がいるとしか感じなかったから、結局パークのフェアさは、私にとってあんまり意味がなかった。ただ、一瞬だけ彼の膝小僧にオロナインを塗ってあげたいという気持ちが芽生えたことだけは、世の女性達に強く主張していきたい。パークの服装は忘れてしまっても、人としての優しさは絶対に忘れない男だってことをね。
逃亡・捜索中の毎日の食事、寝泊りについて
パークマンさんの回答「週に一度は自分へのごほうびにビジネスホテル」
スズメの涙ほどのお小遣いしか持っていなかったから、ほとんどが野宿だった。食事は優しい大人たちに分けて貰っていた。でも、高校生ぐらいになってからは、偽名を使って派遣でアルバイトをするようになって、週に一度は自分へのごほうびにビジネスホテルに泊まれるぐらいにはなった。因みにお気に入りのアルバイトはピッキング作業。仕訳すべき商品を見つけるのは、いつもは見つけられる側である私だけあって凄く得意だった。その後の食事については、主にバイト先で出る弁当か、闇市で買ったヤミ米を食べていたため、取り立てて変わったものを口にしたということはなかったが、腹ペコで食べた、生のヤミ米のフィールソウグッドな味は未だに忘れられない。逃亡中は靴を履いていなかったから、ある意味私も『はだしのゲン』みたいなものだったしね。
山口さんの回答「ずっと無職だったから、親には経済的に迷惑をかけた」
パークのことを気にかけつつも、実家に住んでいたおかげで、きちんと3食取っていた。ずっと無職だったから、親には経済的に迷惑をかけたが、プロの鬼として食っていけるようになるまでは、仕方がないことだと思った。学生時代に刑事を目指していたのも今では良い思い出。試験に落ちたということで、すぐにあきらめたあの時の自分がいたからこそ、最後の最後にパークを見つけることが出来たのだと、自分で自分を褒めてやりたい。あと、たとえパークを捕まえても、一切収入にならないということには、最近になって気がついた。
逃亡・捜索中の恋愛について
パークマンさんの回答「恋する暇もなかったといえば嘘になる」
恋する暇もなかったといえば嘘になる。逃亡中、結構な数の女性に心を奪われた。半ズボンのせいで、時には肉体的に大変な事態になったこともあったほどだ。でも、私には鬼から隠れるという義務があったから、気になる女性がいても関係が進展したことは一度もない。見つけられる側の人間が見つけた恋なんてそんなものだ。もちろん、現在においても女性経験は皆無で、誇り高き童貞を貫き続けている。オールORナッシング。おそらくは、それがかくれんぼという名のリングの掟なのだろう。
山口さんの回答「スナックのママに惚れられているような予感がある」
現在も実家暮らしだから、もちろん妻子はいない。ただ、若い頃にはパークを追いかけるよりもハクい女のケツを追いかけることに夢中になっていた。言うまでもなく結果は惨敗。『職業、鬼』という、わけのわからん男についこれる女性というのは、なかなかいないものだ。ただ、最近通い出したスナックのママに惚れられているような予感があるというのは、一応アピールしておく。今回のことも是非アケミに自慢してやりたい。
今後の生活について
パークマンさんの回答「この先には素晴らしい毎日が待っている」
とにかく休みたい。あとは、ネットカフェに戻って、読みかけの『タッチ』の続きを読むことになると思う。『隠れなくても良い』という緊張感のない生活が、どのようなものなのかはすぐには想像できないが、この先には素晴らしい毎日が待っているという確信みたいなものはある。タイミングを見て愛しのママンにも会いにいく予定だ。グッチーとの関係については、本当はこれっきりにしたいところではあるが、先ほど聞いたアケミのことが妙に気になるので、これからも友達として一応はやっていくつもり。オーマイフレンド。奢ってくれ。
山口さんの回答「新たに就職するつもりは全くない」
おそらく、パークを発見する前と大して変わらない日常が待っていると思う。適当に遊んで、適当に家に帰る。今回のことで、人生の目的を全て達成してしまったような虚無感があるので、新たに就職するつもりも全くない。でも、今日に関してはアケミにこのことを自慢して、お祝いにボトルの一つでも入れてやろうとは思っている。その費用は当然パーク持ちだ。ただ、今晩アケミに寄った後は、パークとは疎遠になってしまうかもしれない。明日には家のパソコンが直る予定なので、今回のようにネットカフェで偶然出くわすという可能性も低くなる。ネットゲームが一段落して、暇があったらまた会ってやってももいい。
「もう30年も隠れ続けてきたんだ。もう十分だ」

記者会見は、会見終了時に促された二人の握手をもって、感動のフィナーレとなった。帰り際に記者から問いかけられた「もうかくれんぼはやらないんですか?」との質問には、「もう30年も隠れ続けてきたんだ。もう十分だ」とパークマンさんは回答している。
その後の二人の行方は定かではないが、ある目撃情報によると、二人は会見後に行ったスナックアケミの料金を支払い切れず、今度は二人揃って鬼のような取立てから、かくれんぼをするハメになってしまったとのこと。
もし、それが事実であるとしたら、そのあたりの徹底ぶりは、つくづく『かくれんぼの鬼』である。

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